酒と料理は一心同体
中国の宴会の「乾杯」には欠かせない伝統酒、白酒(バイジュウ)。アルコール度数が高く、芳醇な香りと濃厚な味わいが特徴です。その背景には、中国の食文化が大きく関係しています。
国土が広大な中国は、気候や産物の地域差が大きいため、地域ごとに味付けや調理法・食材が大きく異なる食文化が発達しました。しかし、油を多く用い、火力に頼った調理技法や、多種類の調味料や香辛料を組み合せた、複雑で豊かな味わいは、地域を越えて共通しています。和食のように魚や肉を生食したり、素材の持ち味を活かしたシンプルな味付けや単純な調理は多くはありません。
白酒は、このような食文化と共に発展し、油を多く使用した料理やしっかりとした味付けにも負けない酒なのです。
「吟醸香」で結ばれた
清酒と白酒
中国の飲酒文化の魅力を、日本の人たちに伝えるため、私たちは、「和食との組み合わせがよい白酒」の開発を目指しました。
古来日本では、大陸から稲作が伝わると、米を主食、魚や野菜を副食とした食文化が生まれました。そして、食用油は中世まで広まらず、肉食も近代まで禁止されていたため、肉や油に代わる味付けとして出汁が発達したのです。出汁の旨味を活かしたあっさりした味付け、そして季節感や鮮度を大切にしている和食は、主食の米から造られる清酒とはよく調和します。しかし、味や香りが強すぎる酒と組み合わせると、繊細な味わいや素材の風味を損ねてしまいます。
「和食との組み合わせがよい白酒」をつくるには、一体どうすればよいのか。わたしたちは、白酒の醸造方法を学びに白酒工場を訪問しました。たくさんの白酒を飲み比べ、香型(香りと味による分類)と曲(麹)の特徴を研究しました。そして、清酒と白酒を結ぶ「香り」こそに目指す白酒づくりの鍵があることに気がつきました。吟醸造りで生み出されたフルーティな「吟醸香」と、白酒特有の「香気成分」の共通性に注目し、華やかな吟醸香を詰め込んだ白酒造りに辿り着きました。
自然・気侯・食の宝庫、北海道。
私たちは、吟醸造りに適した冷涼な気候を求めて北海道へ。
広大な大地と豊富な水産資源による農業・酪農・漁業は日本一の生産量を誇る食の宝庫です。良質な米の産地としても有名で、きれいな空気と清らかな水に恵まれた豊かな自然は、酒造りに必要な品質のよい原料を手に入れやすい環境なのです。
日本最北端の清酒蔵、
国稀酒造。
想いを託したのは、日本最北端の清酒蔵。創業140年を誇る「国稀(くにまれ)酒造」。冷涼な気候風土を活かし、清らかな雪解け水と良質な米を南部杜氏の技で醸し出す伝統的な酒造りを行っています。
暑寒別岳を望む
増毛町。
北海道の北西部、雄冬岬と暑寒別岳に挟まれた増毛町。中国の長春市とほぼ同緯度に位置し、冬の寒さは厳しく、暑寒別岳には夏まで雪が残ります。やがて空気の澄んだ北海道の雪が、大自然の土地に濾過されて、清らかな伏流水となって流れこみます。増毛町が牡丹蝦の日本一の漁獲高を誇るのは、滋養たっぷりな雪解け水のおかげなのです。
雪解け水の恵み。
「百花百獣 謹白」では暑寒別岳の清らかな冷たい雪解け水を酒造りに使用しています。低温でじっくり発酵させて生み出した大切な吟醸香を逃がさず、しっかりと醪の中に閉じ込めるためには、硬度が低い超軟水が吟醸造りに、とても適しているのです。
さらなる、薫り高さを。
清酒の醪を搾ると、なんと吟醸香の約80%が酒粕に残ります。蒸留した酒粕を再び醪の中で発酵させるという、白酒の“連醸技術”をヒントに、吟醸香が凝縮された清酒粕を“連続吟醸”することを想いつきました。
伝統ある南部杜氏の吟醸造りの技と、白酒の伝統的な連醸技術を組み合わせる発想で、薫り高い吟醸香を詰め込んだ白酒をつくることに成功したのです。
400年継承された
北国の醸造技術。
古代中国の酒の神「杜康」が呼び名の由来とも言われる杜氏は、酒造りの技術を代々受け継いできました。400年の歴史をもつ「南部杜氏」は、北国を拠点に清酒の醸造技術を継承してきました。芳醇な果実の香りを生み出す吟醸造りは、古来より受け継がれてきた杜氏の伝統の技なのです。
南部杜氏の本拠地で
栽培された原料。
原材料は、全て国産のものを厳選しています。
良質な米を原料処理をして造られた米麹。そして、南部杜氏の本拠地で栽培された高粱と北海道産の米、トウモロコシ、小麦を丁寧に蒸し上げます。その後、醪の中で清酒粕とともに、低温で長期間じっくり発酵させ、吟醸香を「百花百獣 謹白」の醪の中に閉じ込めるのです。
冷涼な気候の中で、
じっくりと。
仕込桶に、蒸した原料と米麹、酵母、清らかな雪どけ水を加え、醪(もろみ)を仕込みます。醪の中では、麹の酵素によってデンプンがブドウ糖に変化する「糖化」と、ブドウ糖が酵母の働きによってアルコールに変化する「発酵」が並行して同時に行われます。このような「並行複発酵」の方法で、冷涼な気候を活かし、低温でじっくりと醪を発酵させることにより、フルーティな吟醸香を生み出すことができるのです。
香りの足し算、
引き算を。
「百花百獣 謹白」は、雑味や異臭の元となる成分を抑えながら、吟醸香を溶け込ませて、香りや味わいをしっかりと引き出すように調整して蒸留しています。さらに蒸留後、時間をかけてじっくり熟成させ、刺激的な臭い成分や酸化の元となる油分を取り除きます。そうすることにより、吟醸香を際立たせることができるのです。
こうして、和食とよく調和し、中国の個性豊かな料理とも組み合わせのよい「百花百獣
謹白」が誕生しました。
唐獅子牡丹
中国で富貴の象徴、百花の王「牡丹」と力強い百獣の王「獅子」は、海を渡って日本にもたらされ、かけがえのない絆の象徴であり、絶妙な組み合わせ「唐獅子牡丹」として、日本の伝統芸能や工芸などに取り入れられてきました。
ここに誕生した白酒もまた、杯を交わす人と人の心の架け橋となりますように。
そして、酒と料理の妙なる組み合わせとして新しい風を起こせるように。
そんな願いを込めて、この酒を「百花百獣 謹白」と名づけました。
かけがえのない縁を結んでくれた白酒に礼の心をこめて。
そして、「百花百獣 謹白」を手にとってくださった全ての方に感謝の気持ちをこめて。
わたくしは、牡丹。
中国では唐代より
「百花の王」とされ、
白居易をはじめ名だたる詩人が
富貴の象徴として詠みました。
やがて海を越え、日本へ。
恋や栄華のはかなさを映す花として、
宮中で観賞されるようになりました。
二つの国で狂おしく愛されるほど、
わたくしは永く美しく在るのです。
我は、獅子。
勇猛の象徴として、
「百獣の王」に君臨する。
インドや中国で魔を祓う力が尊ばれ、
のちに日本では神域を守る霊獣として祀られた。
我の力は頭だけでも凄まじく、
獅子頭は邪気を祓う 縁起のよいものとされる。
今なお畏れ敬われることで、
我は天下無双の強さを誇るのだ。
我らが結びついた秘密を打ち明けよう。
無敵を誇る獅子にも唯一の弱点がある。
それは、「身中の虫」。
毛に潜む小さな虫も、ふえれば我が身を食い破る。
獅子が休んだのは牡丹の花の下であった。
夜露が虫を滅するという、天恵を得たからである。
牡丹も獅子が身を寄せれば、
他の生きものに脅かされることがなかった。
ひそかに弱さをはらむ二つの王は、
互いをよるべとして結ばれることで、
圧倒的に強く美しい存在で在り続ける。
なんと不思議な「縁」であろうか。
いつしか人びとは、「唐獅子牡丹」に
不滅の美しさ、強さという願いを託すようになった。
今宵も二つの王は、
果てしない栄華と安らぎという
甘露を一つに夢みる。